東京高等裁判所 平成12年(ラ)1789号 決定 2000年10月18日
抗告人(相手方(本案原告)) 日商岩井株式会社
右代表者代表取締役 A
右代理人弁護士 山本晃夫
同 藤林律夫
同 尾﨑達夫
同 鎌田智
同 伊藤浩一
同 金子稔
相手方(申立人(本案被告)) 株式会社大垣共立銀行
右代表者代表取締役 B
相手方(申立人(本案被告)) Y1
右両名代理人弁護士 端元博保
同 伊藤公郎
同 池田智洋
主文
本件抗告を棄却する。
理由
第一 抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告状」<省略>のとおりであり、相手方の反論は、別紙「抗告に対する意見」<省略>のとおりである。
第二 当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件を岐阜地方裁判所に移送するのが相当と判断する。その理由は、原決定の「理由」欄「三 判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 なお、抗告理由に鑑み付言する。
1 抗告人は、民事訴訟法が不法行為地に裁判籍を認めた理由に照らすと、不法行為地の主要な部分が岐阜地方裁判所の管内であることは、本件を同裁判所に移送する理由として当事者間の衡平を図る必要があると認定し得る根拠にならないと主張する。
しかしながら、本案訴訟の審理に当たっては、抗告人、C及び相手方銀行間の交渉経過等や、Cの経理関係等に関する証拠資料(書証、証人等)の収集、取り調べが必要となると認められること、右証拠資料のうち特にCに関係する証拠資料は岐阜地方裁判所の管内に存在することは、原決定認定のとおりである。そして、民事訴訟法5条9号が不法行為に関する訴えにつき不法行為地に裁判籍を認めた理由のひとつが審理の便宜(証拠資料が不法行為地にあるのが通常であること)にあると解されるところ、右事実によれば、本案訴訟を不法行為地である岐阜地方裁判所において審理することが審理の便宜を図ることになると認められ、同条の趣旨に合致するというべきである。
2 また、抗告人は、証拠資料の収集の観点からみても、本案訴訟を岐阜地方裁判所で審理することが当事者間の衡平を図ることにはならない旨主張する。
なるほど、一件記録によれば、本案訴訟において、相手方らが証人尋問を必要とするCの担当者を明らかにしていないこと、抗告人の担当者等抗告人側の証人の尋問も必要となること、右証人が東京近郊に居住していることが認められる。しかしながら、当事者ではないCの担当者が証人として出頭し証言するには、その居住する地に近い岐阜地方裁判所のほうが便宜であり、効率的であると認められること、Cの破産管財人(岐阜地方裁判所の管轄地内に事務所を有する。)がCの経理関係資料等を管理しており、右管財人の出頭を求めるなどして文書の特定、取寄せを行う必要が生じることも予想されること等を考慮すると、前記抗告人に有利な事情を斟酌しても、当事者の衡平の観点からは、本案訴訟を岐阜地方裁判所において審理するほうがより適当であると認められる。
3 さらに、抗告人は、当事者の経済力の比較、本件事案の特殊性は本案訴訟を岐阜地方裁判所に移送する理由にはならない旨主張する。
しかしながら、(1)抗告人が大阪市に本店を置く国内有数の商社であるのに対し、相手方銀行が大垣市内に本店を置く地方銀行であり、相手方Y1が相手方銀行の行員であること、(2)本案訴訟が定型的に不法行為が成立する事案と違い、慎重に検討すべき点が多いことから直ちに本案訴訟を岐阜地方裁判所に移送すべきであるということはできないが、移送の可否を判断するに当たっては、これらを原決定認定の他の諸事情と総合して考慮することは許されるというべきである。
4 そして、原決定認定の訴訟経済、当事者双方の事情その他の諸事情を総合すれば、当事者の衡平を図る観点からは、本案訴訟を岐阜地方裁判所で審理するほうがより適当であると認めるのが相当である。
二 よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 北澤晶 竹内民生)
<以下省略>